最終更新:2026年7月
「毎日通うと慰謝料が増える?」交通事故治療でよくある誤解
交通事故後の通院について、当協会の認定院に通われる患者様から、「通院1日につき4,300円の慰謝料が出ると聞きました」「毎日通ったほうが慰謝料は増えますよね?」といったご質問をいただくことがあります。
2020年4月1日以降に発生した交通事故について、自賠責保険の入通院慰謝料には、1日につき4,300円という基準があります(詳しくは国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」をご覧ください)。ただし、これは「整骨院や医療機関へ1回通院するたびに、必ず4,300円が支払われる」という意味ではありません。慰謝料は、単純に通院回数だけで決まるものではないため、注意が必要です。
交通事故の慰謝料とは
交通事故の入通院慰謝料とは、事故によるけがや、治療・通院を余儀なくされたことによる精神的・肉体的な苦痛に対して支払われる補償です。通院すること自体への報酬や、通院回数に応じて受け取れる手当ではありません。そのため、「通院回数を増やせば、その分だけ慰謝料も増え続ける」という仕組みではありません。
自賠責保険の慰謝料はどうやって決まるの?
自賠責保険では、入通院慰謝料は1日につき4,300円とされています。慰謝料の対象となる日数は、けがの状態、実際に治療や施術を受けた日数、治療経過などを考慮し、治療期間の範囲内で決められます。
一般的な算定の目安としては、次の2つを比較する方法が用いられています。
- 実際に治療や施術を受けた日数の2倍
- 事故日から治療最終日までの治療期間
このうち、少ないほうの日数をもとに、自賠責基準による入通院慰謝料の目安が計算されます。ただし、「実治療日数の2倍」という計算だけで、すべての事故の慰謝料額が機械的に決まるわけではありません。実際の支払額は、けがの状態や治療経過、通院の必要性・相当性などによって異なります。
日数の考え方(例)
例えば、事故日から治療最終日までの治療期間が90日で、実際に治療や施術を受けた日数が30日だった場合を考えてみます。実治療日数の2倍は「30日×2=60日」です。治療期間90日と、実治療日数の2倍である60日を比較すると、少ないほうは60日ですので、この60日が慰謝料の対象日数の目安となります。
一方で、治療期間が90日あっても、90日間すべてが必ず慰謝料の対象になるとは限りません。けがの程度や治療経過、事故との因果関係などを踏まえて、最終的な支払額が判断されます(金額は個別の事情により異なるため、この記事では具体的な金額の明示は控えます)。
毎日通院すれば慰謝料が増え続けるわけではありません
治療期間が90日で、その間に60日通院した場合、実治療日数の2倍は120日になります。しかし、治療期間は90日であるため、一般的な算定目安では、慰謝料の対象日数は90日が上限となります。
つまり、一定の通院日数を超えると、通院回数を増やしても、慰謝料の対象日数が増えないことがあります。慰謝料を増やすためだけに通院回数を増やすことには、意味がありません。
通院回数が多いだけで、過剰通院になるわけではありません
一方で、「通院回数が多いと、保険会社に不利に判断される」と単純に考える必要もありません。事故直後の症状が強い時期など、身体の状態によっては、高い頻度で治療や施術を受ける必要がある場合もあります。重要なのは通院回数の多さではなく、次のような点です。
- けがの内容や程度
- 現在の症状
- 治療や施術による回復経過
- 医師の診断や治療方針
- 施術を受ける必要性
- 症状に対して通院頻度が適切か
身体の状態や治療方針に沿った通院であれば、回数が多いという理由だけで、直ちに過剰通院と判断されるわけではありません。適切な通院頻度については「事故に遭ったのだけど病院より整骨院に通いたいのですが」もご覧ください。
身体の状態に合わない通院には注意が必要です
慰謝料を増やすことだけを目的に、身体の状態や治療方針に合わない通院を続けることは適切ではありません。治療や施術の必要性・相当性について疑問が生じた場合には、保険会社から治療内容や通院状況の確認を受けることがあります。その結果、保険会社から治療費や施術費の直接払いである「任意一括対応」の終了を打診されたり、それ以降の費用について必要性・相当性を争われたりすることがあります。
ただし、保険会社から任意一括対応の終了を伝えられたからといって、その日をもって医学的な治療期間が強制的に終了するわけではありません。症状が残っている場合は、保険会社の判断だけで通院をやめるのではなく、医師や施術者に身体の状態を伝え、今後の治療方針を確認することが重要です(打ち切りを打診された場合の対処は「保険会社に「治療費の打ち切り」と言われたら、どうしたらよい?」、整骨院への通院を認めないと言われた場合は「「整骨院には通えません」と言われたら?」をご覧ください)。
自己判断で通院を中断しないことも大切です
痛みやしびれなどの症状が残っているにもかかわらず、自己判断で通院を中断すると、必要な治療や施術を十分に受けられなくなる可能性があります。また、長期間にわたって通院が途切れると、「症状が継続していたこと」「交通事故と現在の症状との関係」「継続した治療や施術が必要だったこと」について、後から説明しにくくなる場合があります。症状が残っている場合は、自己判断で終了せず、医師や施術者に相談してください。
なお、一般的に症状が残ることを意味する「後遺症」と、自賠責保険上の補償対象となる「後遺障害」は同じものではありません。自賠責保険における後遺障害は、交通事故による傷害との因果関係があり、医学的に認められた症状が、所定の等級に該当すると認定された場合に補償の対象となります。
自賠責保険の120万円は慰謝料だけの上限ではありません
自賠責保険では、傷害による損害について、被害者1人につき120万円の支払限度額が定められています。この120万円は、慰謝料だけの限度額ではありません。原則として、次のような費用を合計した、傷害による損害全体の限度額です。
- 医療機関の治療費
- 整骨院や接骨院の施術費
- 通院交通費
- 診断書などの文書料
- 休業損害
- 入通院慰謝料
そのため、自賠責基準による慰謝料の計算額が、そのまま全額支払われるとは限りません。なお、損害額が120万円を超えた場合に、それを超える損害がなくなるわけではありません。120万円を超える部分については、加害者側の任意保険や加害者本人への請求などを含めて、個別に判断されます。自賠責保険を患者様自身で請求する方法は「患者様でも直接、自賠責保険を請求できるってご存知ですか?」で解説しています。
本当に大切なのは身体を回復させることです
交通事故後の通院で最も大切なのは、慰謝料の金額を増やすことではなく、事故によって負ったけがや症状をきちんと回復させることです。通院回数を増やすこと自体を目的にするのではなく、身体の状態に応じて、必要な治療や施術を適切な頻度で受けることが重要です。反対に、慰謝料や保険会社からの連絡を理由に、症状が残っているのに無理に通院を終了することも適切ではありません。現在の症状や回復の状態について、医師や施術者と相談しながら通院を続けましょう。
一般社団法人交通事故医療情報協会の考え方
当協会の認定院では、「現在のお身体の状態」「症状の程度」「回復の段階」「日常生活や仕事への影響」などを確認したうえで、身体の状態に応じた通院ペースをご提案しています。慰謝料を増やすことを目的とするのではなく、交通事故による症状から、しっかり回復していただくための通院を大切にしています。その結果として、事故による損害について適正な補償を受けられることが望ましいと考えています。
交通事故後は、身体の痛みだけでなく、保険会社とのやり取りや補償について不安を感じる方も少なくありません。通院方法や身体の状態について不安がある場合は、当協会の認定院へご相談ください。なお、慰謝料額、過失割合、後遺障害申請など、個別の法律判断が必要な内容については、弁護士などの専門家へ相談することが大切です(「交通事故にあったら・・・遠慮せず弁護士に相談しましょう!」もご参照ください)。当協会では、交通事故に遭われた方が、安心して身体の回復に専念できる環境を整えることを大切にしています。交通事故治療の全体の流れは交通事故治療ガイドにまとめています。
※この記事は、自賠責保険に関する一般的な情報を提供するものであり、個別の事故について法律上の判断や補償額を保証するものではありません。事故の状況や保険契約によって取扱いが異なるため、具体的な補償については、保険会社や弁護士などの専門家にご確認ください。







